「あなたは先週の木曜日の午後6時から7時の間、どこで何をしてましたか?」
と刑事に聞かれても何も答えられないだろうな。
もうそういうのはだめだ。
何があっても答えられない。
もう自分の車を無くしてから10年以上たつけれど、時々レンタカーを借りて
乗ることがある。
ブレーキとアクセルを間違えることは無いけれど、
「今通り過ぎた信号青だった?」と聞かれると答えられない。
ひょっとすると「赤だった?」とも思う。
たぶんその時は信号が青だと認識して運転しているはずだけれど、
通り過ぎたらもうわからない。
それは今に始まったことではないかもしれないのだけど、
20歳くらいの昔だって遮断機の無い踏切を飛び越えたことが何度かあった。
あれでよく死ななかったなと思う。
もともとそのくらいの認知機能しかないのかもしれない。
「あれは覚えてる?」と聞かれて、「覚えてるよ」と答えても
憶えていることがちがうことがあるよね。
自分はこう思っていたけど、そうじゃなかったとか、
「いや、それはほんとうはこうだったはずだよ」とか。
そういうことはどうして起きるんだろう?
一緒に過ごしてきたはずなのに、
一緒に同じ経験をしてきたはずなのに、
例えば綺麗な海岸に行って、僕は空を見ていても
君は水平線を見ていたのかもしれない。
「きれいね」
「うん、きれいだね」
って別のものを見て言ってる。
まあ、同じものを見て、同じように感じ、同じ記憶をしていたら
二人いる必要もないかもしれないね。
どこかで違っているのがいいのかもしれない。