8/13/2013

空で思ったこと その2


足が地面を離れて風の音しか聞こえなくなると、ほとんど自分と話している。
初めて空を飛んだ時からそうだ。
声を出している時もあるし声に出さない時もある。
テイクオフしたすぐ後からだ。
「よし、今日はどっちへ行く?」
「あそこでだれか上げてるな、あそこに行こう」


高い高度に一人でいると孤独感が強くなる。
初めてスキーで急な斜面に立った時もそうだった。
自分を少し後ろから見ているような感覚だ。
あるいは自分という体を操縦している感じがする。

他の機体に接触したことがあった。
私が上げ始めた時、遥か上に誰かの機体が見えた。
高さも十分あったし、先に上がって行くだろうと思っていた。
そこでしばらく回していた。バリオの上昇音はかなり強かった。
700メートルくらいまで来た時、上でバリバリと音がした。
とっさに誰かにぶつかったと直感した。
すぐに、機体が回転しているのがわかった。
どこか壊れたかどうかはわからないが、とにかくかなりの速度で下の森が近づいてくる。

その時は声を上げていた。
「ちょっとまて、レスキューだ」
「レスキュー、レスキュー」
「なんでだよ! 出ない!、出ない!」
そんなことを言っていた。レスキューというのは緊急パラシュートのこと。

思い出してみると、私はぶつかったと思った瞬間から機体をコントロール
しようとは思ってもいなかった。だからきっと両手でベースバーをがっちり握って
固まってしまっていたのだと思う。
見ていた人に聞いたら回転しながら落ちていた、と言っていたので、
ベースバーをいっぱいに引いたままだったのだと思う。

左手で胸のレスキューを出そうとするが手が震えて出なかった。
「レスキュー!レスキュー!」と叫んでいた。
左手では無理だと思って両手で引き出そうと思って、右手をレスキューの
端に持って行った瞬間に機体が”ブファ”と音を立てて水平に戻った。
そのまま何も無かったかのように穏やかに水平に飛んでいた。

たぶん両手を離したために、機体が自由になり、自分で水平を取り戻したのだろう。
後で考えたことだけれど、あの時緊急パラシュートを投げても、開かなかったろう。
それにもし開いたとしても高度が400mくらいしかなかったから、ちゃんと降りられたかどうか
疑問だ。

私は独り言癖があるのか?いやそんなことはないだろう。
誰でも空の上ではそうなんだろうか?

秋の足尾はすばらしくきれいだ。
上空から見る紅葉は絶対に他では経験できない。
1000mくらいを飛んでいると紅葉をバックに他のハングが遥か下を飛んで
いるのが見え、紅葉とハングの機体の色が実にきれいだ。

ハングは下を見ると自分の下の視野にさえぎるものが何も無い。
だから自分が飛んでいることを怖いくらいに実感できる。
体を水平にして飛んでいるのは夢の中で飛ぶシーンと同じだ。

自分の飛んでいる影が山肌に映ることがある。格好いいと思う。

思い切りベースバーを引き込むと、ものすごい風きり音とともに下降する。
地上からはヒューという音に聞こえる。
斜面で練習していた時は、いつかあれをやってみようと思っていた。



家の近くの公園へ時々行く。
50mくらいの高さの丘があり、そこから街が一望できる。
斜面の上に立つと前からいい風が入ってくる。
目をつぶるとそのまま飛べそうな気がする。