結局、ノイマンさんが言っていた風を切るシューという音はキャノピーのあるグライダーでないと聞くことはできないことはわかった。
ハングでは飛んでいる時は両耳に風を切るボワーという音しか聞こえない。
でもそれが止まる時がある。
ソアリングしている途中でふいに静かになり地上の音がかなりはっきり聞こえることがある。
たぶん空気に対して静止した状態が起きるからなのだろう。
また、よく聞く話で、鳥と一緒に飛んだというのがある。
私も何度か御一緒したことがある。
足尾は鳶やチョウゲンボウなどの鳥がハングと同じ場所でソアリングしている。
考えて見るとあたりまえなのだが、我々が彼らのエリアに踏み込んでいるようなものだ。
サーマルを見つけて上げようとして回していると横を猛禽類が一緒に飛んでいる。
しかし彼らは私の倍以上の角度で上昇して行く。
やはりプロだと思った。
よく聞く話で、雲底まで行ったというのがある。
私も何度か経験があるが、はっきりと雲の底だと思ったことはない。私の場合がそうなのかどうか知らないが、境目ははっきりしない。臆病なのでやばいと思ったら降りる。
だからちょっともやもやしてるなということと、遠くを見ると、ああここが雲底だな。と思った程度だ。
テイクオフで失敗するのをスタ沈、山に降りるのを山沈、木の上に降りてしまうのをツリーランとか言うのだけれど、スタ沈とツリーランは一度ならず経験がある。
山沈しそうになったことがある。
その時は調子に乗ってあまりいい条件じゃなかったのに、そのうち上がるだろうとぐるぐる回っていた時だった。急に機体が激しく沈みだした。もう木の梢に着きそうな感じがしたと同時に、自然が悪意を持って私を落とそうとしているような感じがした。
自然が悪意を持っていると感じたのはその時だけではないのだが、不意打ちをくらうとよくそう感じた。 その時はそのまま山の斜面に沿って飛び、そのままランディング場までたどり着いた。
一緒に飛び始めたAさんも私と全く同じような状態で木の上に引っかかってしまったそうだ。
彼は不幸なことに木に降りたことを誰も気づかず、無線も届かず、自分でなんとかハーネスを脱いで、自力で木を降りてショップまで帰ってきたらしい。
ランディング場に戻れなかったことがある。
いつものように尾根の上で回していたのだけど、あまり上昇しなかった。そこでやめればよかったのに、深追いしすぎて、気が着いた時は尾根の反対側にいた。
そこから上昇せずに尾根を越えるルートが無かったので、あきらめてどこかに降りられそうなところを探した。1600mくらい先に茶色の地面があった。あとは畑と林だったと思う。
そこに向かって飛んだ。高度は大丈夫だろうか?電線は無いか?風向きはどっちだろうか?誰か見てくれているだろうか?とその時ほど考えて飛んだことはなかった。
降りられそうな場所の上空を2回ほど回って高度を落として行ったが、途中農家の人がいた。
上空から「すみませーん!おりまーす!」と叫んだ。(この時ビデオを撮っていたのでその声も残っている)
そこは無風だったようだ。敷地ぎりぎりに降りられた。畑ではなかったようだが、急いであぜ道に移動して機体をたたんだ。
それから機体をそのままそこに置いて、歩いてショップまで帰った。ずいぶん歩いたような気がする。自分の車に乗って機体を取りに行った。
ランディング場以外の場所に降りるのは違反なので、それを報告して罰金を払った。
罰金はそのままお酒に変わって農家の人に届けられたそうだ。
それがB級ライセンスでやった唯一のクロスカントリーだった。