Pink Floydのアルバムタイトルだけど、その症状は以前に
一度経験していた。
30歳になる前に車で兄の家に行くとき、幹線道路から
脇道に曲がる時、曲がったとたんに今どこを走っているか
わからなくなった。「ここどこだ?」という感じだった。
でもそれは一瞬で、すぐに今いる状況はわかった。
だけどその一瞬の空白の感覚をよく覚えている。
最近は例えば書棚の前に来たけれど、何しに来たか
わからないという症状は良くある。
それもたぶんその症状に近いんじゃないかと思う。
でもその場合「何しに」というところはなかなか思い出せない。
あるいはある漢字を見ているとその漢字が何の字か
わからなくなることがある。ゲシュタルトなんちゃらという
症状なのだけど、それは若い頃から気が付いていた。
理由はわからないけれど人は漢字を映像で覚えているのかも
しれないような気がする。漢字を見ているとその映像と
漢字の意味が分離してしまうのではないだろうか。
あるいは、例えば役所で書類に住所とか書いているときに
非常に簡単な漢字を思い出せなくなることがある。
それも若い頃からあった。
それは何故だろう?
momentary lapse of reasonというのは、直訳すると
「一時的な理由の欠如」ということだろう。
これに対応する日本語はあるだろうか?
reasonを「理性」と訳している人もいるけれど、理性と
言うと何か意味をはぐらかしているように思える。
たぶん、何かをした時にその理由がわからないということ
だと思う。
このタイトル、邦題は「鬱」だけれど、それもちょっと
違うように思う。
何かをした時になぜそれをしたのかわからない、
という症状のことだと思う。
彼ら(ピンク)にとってそれに相当する状況は2回あった。
いや、3回かもしれない。
1回目はシドを追い出したこと。(原因はロジャー?)
2回目は観客につばを吐いたこと。(原因はロジャー)
3回目はロジャーがバンドを抜けたこと。(原因はロジャーか?)
3回目の原因はわからない。
ひょっとするとロジャー以外の3人がロジャーを拒否した
のかもしれない。
問題は1回目だ。
色々読んでみたけれど、なぜロジャーがその日皆が乗った
車でシドを迎えに行かなかったのかわからない。
書かれていることを読むとロジャーが「行かなくていい」
と言ったように書かれている。
でも他の3人はどうだったのかわからない。
だけど私にはその時のシドの気持ちがよくわかる。
どんなにうろたえて、どんなに不安で、
どんなに悲しかったか。
「お前はいらない」と言われた気持ちがだ。
それを「momentary lapse of reason」と言われたって
受け入れるわけにはいかない。