9/03/2013

Deep Gapへの旅(4) Doc Watson

この旅の目的がドック・ワトソンの生まれ育ったところを見に行こうというものだったので、
とにかくディープ・ギャップに行ってみようと思った。
持っていたレコードの地図ではよくわからないので地図を買った。Rand Mcnallyの大きな地図だ。
それには一応ディープギャップ周辺ものっていた。

ディープギャップはブーンから10数キロのところにある。しかしディープギャップのどこでドックが生まれたかは全くしらなかった。
高校生の頃からレコードで見ていたDeep Gapというところがどんなところかを見てみたかった。

この脇道だ。

とりあえずディープギャップの近くまで行ってみたが、そこからどう行っていいかわからなかった。
それで全くの勘でわき道に入ることにした。
わき道は感じとしては札幌の盤珪を走る道に似ていた。ブルーリッジというところ自体が北海道の雰囲気だった。たぶんその場所にポンと誰かを連れてきて「北海道だよ」と言ったら信じるだろう。

ディープギャップのど真ん中に着いたのだけれど、やはりドック・ワトソンが生まれた家を見てみたかった。それでそこにあったお店(洋服やカーテンの生地屋だった)に入ってきいてみた。
たぶんお店の人はDoc Watsonの家を知っていたのだと思うが、はっきりと場所を教えてくれなかった。「このあたりはみんなWatsonだよ」と言っていた。それでもしばらく話していたら「その次のわき道を入ったところだよ」と教えてくれた。

わき道は谷川に沿って登ってゆくような道だった。道の両脇にぽつんぽつんと家があった。
その道をどんどん登って行って、結局どこの家かわからなかった。
これ以上行ってもしょうがないなと思い、狭い道を車をバックで戻った。


バックで下まで戻るのは辛いので、どこかでUターンしようとしていた。
左側に家があり、その庭先まで道があったのでそこを使わせてもらおうと思った。
私は地図を見ていて何も見ていなかった。
その時友人が何か叫んでいた。
「ねえ!あの人、そうじゃない?!」と言っていた。
私もその人を見たが、「いや、違うだろう」と思いたかった。
すごく興奮していてその後どうしたかよく覚えていないが、すぐに車を降りて
訳を言わなくちゃ、と思っていた。

その人は手に大きなスパナを持ってこっちを見ていた。
私は確か5メートルくらい離れたところからまず挨拶したと思う。
その時にははっきりとその人がDoc Watsonだとわかった。
それから旅行中であることとか車をUターンさせたかったとかなんだか言ったと思う。
 
Doc and me

ドックが手にスパナを持っていたのは、ちょうどその時、機械のエンジンを直していたからだった。
彼は作業小屋で作業をしていて、私たちの車の音がしたので出てきたそうだ。
家の人が買い物に出ていて彼は一人だったそうだ。それで車の音がしたので帰ってきたのだと思ったそうだ。
でも彼のことだから車の音が聞きなれない音だと気がついたはずだ。それで大きなスパナを手に出てきたのだと思う。

彼はスパナをズポンのポケットにしまって、話をしてくれた。


私はマールフェスの会場やマールの庭を見てきたこととかを話した。
私も友人も非常に緊張していて、何かもっと聞いたり記念写真を撮ったりできたと思うのだけれど、
友人が撮っていたビデオだけが残っている。

彼にお礼を言って分かれる時に、
ドックは「カメラ持っているか?」と聞いた。カメラは車の中だった。
「友人がビデオを撮ってます」と言った。
そうすると彼は「旅を楽しんで」と言い、小屋に戻って行ったが、
その時「アーカンサスの旅人」を口笛で吹きながら歩いて行った。
あの口笛は私たちへの最高のプレゼントだった。

私はドックのような有名な人は街に住んでいると勝手に思い込んでいた。
よく考えたらドックはやはり田舎に住んでいるのだと思うが、
その時は思いもしなかった。

今思うと、全て幸運のせいで彼に会えたと思う。
また、高校生の頃に既にディープギャップでドックに会うことが決まっていたような気がする。