浅草十二階という建物は遥か昔になくなってしまっていて、見たことがあるわけがない
のだけれど、子供の時の記憶にその塔を見た記憶がある。
生まれた年からしてそんなことはあり得ないのだけれど、
浅草の町を歩きながらその塔を右手に見た記憶がある。
塔は写真に残っているあの形をしている。
そのことを考えていた。
改めて調べたら十二階は1923年に解体されている。
「浅草の塔」で検索したら「仁丹塔」というのがでてきた。
そうだ、これだ、と思った。
あれは仁丹塔だったんだ。
形はたぶん後から記憶を装飾した結果だと思う。
仁丹塔は1986年に解体されている。
結構後まであったんだ。
浅草はそう何度も行っていない。
しかし学生の時に先生と一緒に行ったことを思い出した。
ドジョウを食べに行こう、と神崎先生がさそってくれた。
あの時だ。
駒形のドゼウだ。
下足番の人が客の靴を全部覚えていたのを覚えている。
相当数の客が入っていたのに。
その帰りに先生の車から見たのが仁丹塔だ。
そうだ、一瞬だったけれど、神崎先生が「あれ、仁丹塔だよ」
と早口で言っていた。
そのシーンをはっきり思い出した。
神崎先生はいろいろ連れて行ってくれたことを思い出した。
先生は今どうしているだろう。