秋葉原で会社をやっていた頃の話だけれど、
昼休みや夕方はだいたい街を散策していた。
秋葉原と御徒町の中間ぐらいに望遠鏡や顕微鏡を売っている専門店があった。
確か「アトム社」と言ったと思う。
現在は「スターベース」という会社になっているようだけれど、現在その店のある
場所とは山手線を隔てて反対側だったような気がする。(怪しいけれど)
ある日の夕方、まだ太陽が完全には沈んでいなかったと思うけれど、
その店の前で店員さんが反射望遠鏡(確かビクセン)を組み立てていた。
一度そこを通り過ぎて、御徒町から戻ってまたその前を通ったら店員さんが
望遠鏡を覗いていた。
「何か見えるんですか?」と私が聞くと、
「ちょうど今土星が見えています。輪は今の時期見づらいですが・・・どうぞ」
と言って私に場所をゆずってくれた。
アイピースをのぞくと、ゆらゆらと土星がそれとわかる形で見えた。
私は正直、感動した。
秋葉原のしかもまだそんなに暗くない夕方に土星が肉眼で見えたことに
驚き、感動した。
その後店員さんが何かその望遠鏡について説明してくれたが、全く覚えていない。
それよりもその土星の姿が忘れられなかった。
それからしばらくして、子供のおもちゃを買いに行ったお店で、望遠鏡を売っていた。
鏡筒と簡単な三脚がついたおもちゃのようなものだった。
それを買ってみようと思った。
家に帰って月を見てみた、とてもきれいに見えた。
星はちょっと滲んでさすがにおもちゃだった。
どうも私はただ確かめるためだけに何かを買うことが多い。
確かめたらもう満足してしまってどうでもよくなる。
それで、おもちゃでもかなり見えることがわかり、あの土星を見たような望遠鏡は
どうだろう?と思いついた。
あの秋葉原のお店に見に行った。
あの店員さんがいた。
買えそうな値段のものを選らんだ。
タカハシの76mm屈折と赤道義を買った。
今だったら絶対に買えない金額だった。
反射か屈折か迷ったが屈折にした。
夜にセットして見てみた。
正確な北がわからなかった(北の空が家に隠れて見えなかった)ので方位磁石で
合わせて微調節した。
確かにおもちゃのものよりずっときれいに見えた。
毎日見ているとだんだん慣れてきて、今の時間空のどの方角がどの星座かが
わかるようになる。
星雲は見えないだろうかと、アンドロメダを探した。
「見えた」、見えたけれどぼやっとしている。
当然なのだけれど、まあこんなものか、と思った。
肉眼できれいに見える星雲はオリオンだろう。
横浜でもきれいに見えた。
あの望遠鏡では本当に楽しんだ。
それから、その頃実験的な報告がされていた冷却CCDを仕事半分で作ってみた。
とりあえずSONYの産業用CCDカメラを分解してCCDを外し、その後ろに銅で
冷却器を付けそれにペルチエ素子を付けた。
SONYのCCDカメラはCCDの蓄積時間を外部から変えることができた。
フィルムカメラのシャッター開放に相当することができたので、開放のタイミングと
CCDから一度だけ流れ出てくる映像信号を取り込む画像メモリーも作った。
それでアンドロメダを撮ってみた。
それほど長い蓄積時間でなくても星雲はかなりくっきりと写った。
その当時のビデオカメラはNTSC準拠で、解像度は400*400くらいしかなかった。
実際にはもっと低かったかもしれない。
それでも当時は満足だった。
しばらくして望遠鏡には飽きてしまったけれど、星を見るのは今でも好きだ。
今思うには、天体観測を楽しむのに一番いいのは双眼鏡だと思う。
7×10くらいの明るい双眼鏡がいい。
それで寝転んで夜空を見ていると星の中にいるような気分になる。
オリオンもはっきり見えるし、アンドロメダだってちょっと視線をずらせばそこに
あることははっきりわかる。
時として流れ星が視野を横切ることもある。
空を見るには双眼鏡がいい。