9/19/2022

友人の死


 昨日友人から電話が来た。
ちょうど昔やっていた曲(Wasted on the way)を録音していた。
電話はその歌を昔一緒にやっていた友人からだった。
「ちょっと言っておくけど・・・」
「松尾が死んだ」
『ええ~のびちゃったの?』私はいつもの調子で言った。
「いや、ほんとに死んだんだ・・」
『うっそ~!今俺あの歌練習してたんだぜ!』私はレコーダの音を鳴らした。
「いやいや、ほんとなんだ、昨日だ・・・」
「昨日・・・(声にならない)・・・」
『いやいや、信じられないよ』
『(声にならない)』

松尾とは一緒にバンドを作ったけれど、どういういきさつだったのか、
覚えていない。その前に他のメンバーと松尾と一緒のバンドをやっていた。
一緒にやり始めたのはその頃からだろうな。
バンドではいろいろな歌をやった。
CS&Nなんかは松尾がいなかったら僕は一生やることは無かったと思う。
ボーカルは松尾任せだったから。
僕はチャラチャラとギターを弾いていれば良かった。
アイムユアーズが最後うまくいかなくなったのは、僕のせいだ。
このいい加減な性格のせいだ。

松尾と一緒に演奏したのは2年ほど前の蕨市民会館でやったのが最後だ。
あれからコロナが流行り出してお互い出ていくこともなくなってしまった。
それっきりだ。
その2年前に松尾に「松尾の歌を録音してCDにしよう!時間がある時言って」
と言って別れたのだけど、録音することも無かった。
それがとても残念だ。
もう一度何か一緒にやりたかった。

松尾は学生の頃、交通事故を起こしたことがあった。
あれはどこかのコンサートで演奏した後だった。
車は松尾が運転していて、確か松尾と我々4人が乗っていた。
九段下の交差点を坂下の方から右折する時だった。
信号は黄色から赤になっていたと思う。
松尾が右折を始めた。
すると坂上(靖国)の方から直進車が猛スピードで下ってきた。
そのままこちらの車にほぼ正面衝突だった。
私は後ろの席にいて、前の座席に思い切り頭をぶつけた。
しかし怪我は無かった。
助手席にいた人は怪我をした。
松尾が何か叫んでいる声が聞こえていた。
はっきり見えなかったけれど、相手の車のフロントガラスは割れて
誰か(女性だったか?)の頭が見えた。
それから私はそのまま車の中にいた。
救急車が来て私たちは病院に行った。
その後のことを”全く”覚えていない。
松尾はどうしたんだろう?
ずっと後になって松尾に聞いたことがある。
そしたら「大丈夫だった」としか言わなかった。
私は松尾になにかしてやっただろうか?
何かしてあげなければいけなかったんじゃないだろうか?
とずっと考えていた。

それからずっと後になって、お互いいい年になってから、
松尾から電話をくれた。
それでまた一緒にやろうということになってしばらく一緒に
バンドをやっていた。
彼は私の仕事についても心配してくれた。
それで彼の関係の会社に紹介してくれたことがあった。
それは仕事にはならなかったけれど、私の知らない放送関係の
仕事場は訪ねてみて面白かった。
それからも喫茶店で会って何度か話をした。
かれも仕事がいろいろ変わっていた。
しかし私は彼になにかやってあげられただろうか?

思えば私は松尾のやりかたに文句ばかり言っていた。
だけど彼はそれについて直接反論したことがあっただろうか?
それよりも私が間違えたり、うまく演奏できなかった時
彼は文句を言っただろうか?
ずっと思い出していたけど、たぶん無い。
彼は私が何度失敗しても文句を言わなかった。
そうだったんだ。
今になってそれがわかった。
でも私は彼のことを理解していただろうか?
私は彼になにもしてあげなかった。
今になってそう思う。