ほら、深い森の中で誰にも知られず一本の木が倒れた。
その木は音を立てたか?
っていう禅問答みたいのがあるでしょう?
それを言った本人は誰も聞いていなけりゃ音は立ててないと言っているけど、
そんなひどい話は無い。
だってあなた「木が倒れた」って言ってるでしょう?
つまり(それが仮定の話だとしても)あなたはそれをその場で見ている。
あるいはその場にいてその音を聞いてるはず。
だめだね、片手の拍手の禅問答にはかなわないね。
それはそうと、誰かの本の話で、
「誰も歌わない古い唄のように忘れられていったとき、」
というのがあるらしい。
それを聞いて思ったのだけど、
誰も歌わなくなり楽譜もレコードも無い
そういう歌はいったいどこへ行ってしまうのだろう?
例えばなんでもいいけど、「上を向いて歩こう・・・」っていう歌、
それがいつか忘れられてその歌のレコードも無くなって
楽譜も無くなって、
例えばその歌を知っている最後の一人が死んでしまったら
その歌はどこへ行くのだろう?
あのメロディーは確かにあった。
だけどそれを歌う人も演奏する人も、それを表す楽譜も無い。
そうなった時、その歌は
亡くなった誰かと同じように、
確かにそこにいたのに、
世界から忘れられてしまう。
でもその人の思い出はどこかに残っているような気がする。
その歌も、そのメロディーは白い糸のように
空の中に浮かんでいて、
その糸はまた誰かがそれを捕まえるまで
空をふわふわと飛んでいるような気がする。