私の父は銀行マンだった。
その前は大蔵省にいた。
私がまだ子供の頃に、子供二人を座らせて
「お父さんは会社を辞めた」という話をした。
まだ子供だったからその意味がわからなかった。
たぶん何の不安も抱かなかったと思う。
だからその時大蔵省を辞めて銀行に入ったのだと思う。
だいたいそこまではわかっていたのだけど、父の写真を探していたら
その前があったと思われる写真を見つけた。
この写真の裏には「東京帝国大学卒業、日産自動車株式会社」とある。
たぶん大学を出て日産自動車に就職したのだろう。
この写真はすごく父らしい感じがする。
そしておそらくその後に軍に徴集されたのだろう。
写真は二等兵だ。
この写真は父があまり見せなかった表情だ。
とても不安そうだ。
たぶん私が怖がりだったことから考えると父も怖がりだったかもしれない。
ここに行って「大丈夫だよ!」と言ってやりたい。
戦争が終わっても長い間シンガポールの英国軍の捕虜収容所にいた。
日本に帰ってくるのはずいぶん遅くなったらしい。
前にも書いたけれど通訳というか翻訳というかの仕事をまかされていたらしい。
友人が言うにはこの写真は私にそっくりだということだ。