あれは1986年頃だろうか、地図を作っている大手の会社から仕事が来た。
それは航空写真を目で立体的に見ることはできないだろう?というものだった。
その地図データはレーザーディスクに記録されていた。そこから右(目)に相当する映像(静止画)
と左目に相当する映像を出して肉眼で立体的に見えるようにする。
右目と左目に対して独立した別の映像を見せることができればそれで済むのだけれど、
当時はそういう小さな高精細のディスプレイは無かった。
当時映画館でやっていた立体映像は赤と青のセロファンを貼った眼鏡で見るものだった。
それでも良かったのだけど、スマートじゃないので白黒あるいはカラー画像のままででき
ないだろうかというのが仕事の内容だった。
それで当時試験的に作られていた液晶シャッターを使ったゴーグルを使おうということになった。
そのゴーグルを作っていたのはビクターだった。
その現物はついこの前まであったのだけど処分してしまった。
写真は他の会社のものだが、確かこんな感じだった。
こんなボックスはついていなくて、ケーブルとコネクターがついているだけだったと思う。
この液晶シャッターは後になって低電圧でも動くものができたけれど、当時は数百ボルト
の電圧をかけないといけなかった。200ボルトくらいだったろうか。
電流はほとんどいらないので高電圧の矩形波を2相にして左右の液晶に入れてやればよかった。
この回路はうまく行った。
NTSCのビデオ信号が1フィールド60ヘルツだったので、とりあえず片フィールドのみで
試すことにした。60ヘルツの電圧を左右の液晶に入れてやった。
映像も1フィールドごとに左右の映像を切り替えなければいけないのだけれど、レーザーディスク
やビデオテープでこれを行うことはできなかった。
レーザーディスクは(当時)は出力信号が正規のものでなくモニターテレビに映ればいい、
という程度のものだったので正確に切り替えることができなかった。
それで方チャンネルごとに画像メモリーに入れることにした。
片フィールドなのでとりあえず256*256のメモリーに入れた。
2枚の画像メモリーは同期発生器を共有して同じタイミングで出力するようにして、
60分の1秒ごとに左右の映像を切り替えて出力した。
その左右の切り替えタイミングを液晶シャッターにも与えてやって目とモニターを
同期させた。
これはうまく動いた。
きちんと立体的に見えた。
それで確か一度収めたように思う。
しばらくして客先から「ちょっとおかしい」という連絡があって、出かけて行った。
そうすると「山が谷に見える」という。
私と一緒に行った同僚が見てみた。
私はきちんと山は山に見えた。
ところが同僚は「たしかに谷に見える」という。
私ももう一度見たけれどちゃんと山に見えた。
何度かやっているうちにわかった。
山は谷に見えるんだ。どちらがとがっているかは2枚の写真からではわからない場合が
あることがわかった。
最近よく見る顔の立体マスクが実は窪んでいる、というのと同じだった。
それをその後どうしたか忘れてしまったけれど、
ハード屋だった私の方は、レーザーディスクの同期信号が正規のものでない方が
重大な問題で、そこで使っていたレーザーディスクから正確に左右のデータを
引き出すことができずに辞めたような記憶がある。
あれはその後どうしたんだろう?
よく覚えていない。